空調機メーカーとして、日本で初めてエアコンを開発。現在でも主力事業の空調機において、空気清浄や加湿といった機能を付加した画期的な製品を開発、製造する。さらに化学品、大気汚染の抑制に貢献するフィルター、食料の保存・輸送に寄与する冷凍冷蔵分野なども展開している。
しらい・あきこ●滋賀製作所 空調生産本部 商品開発グループ勤務。兵庫県出身、33歳。工学研究科 環境・エネルギー工学専攻修了。2008年入社。現在、夫と3歳の子どもとの3人暮らし。
ルームエアコンの商品化への前段階となる先行開発、発売に向けての年度開発を担当してきた白井さん。前編では、着実に商品開発のスキルを身につけ、成長する過程を聞きました。後編では、大きなプロジェクトを任され、最後までやりきったことで大きく成長した日々、産休・育休のブランクを経て、希望の商品企画として働く現在までをうかがいます。
製作所全部門をあげてのメンバーで構成される大プロジェクトに開発として加わる
-これまで経験した中で、ターニングポイントになった仕事とは?
入社5年目に、先行開発からかかわっていた『うるさら7』の年度開発を担当することになりました。年度開発は、先行開発で考えた部品や配置、製造工程について具体的に詰めていく段階。最終的に商品が出来上がるのを見られるので、やりがいや手応えは大きいですが、発売までの期限で求められる開発を形にしなければならないプレッシャーも大きいんです。私の担当は、『うるさら7』の先行開発でかかわった加湿ユニットの小型化。年度開発では、金型(部品製造時に使用する型)を作り複数台のデモ機を製作して機能を確かめるのですが、先行開発段階では加湿性能が出ていたのに、デモ機では出たり出なかったりと、結果にバラつきが出たんです。その原因を明確にしなければ、製品化はできません。そこで部品を組み換えては、また試験をして、それでも結果が出なくてあせるばかり。上司や先輩、また他部署の方にもアドバイスをもらいながら原因を探りました。金型による部品製造の公差(製造時に生じる許容範囲の設定)や、部品組み付け時のバラつきが加湿性能に影響を与えるということがわかり、「試験結果がOKだからOK」ではなく、原理原則に基づいた評価、考察がいかに重要かということを痛感しましたね。
最終的に、多くの仲間の協力をもらい、部品形状を大きく見直すことで解決へとつなげました。
-大きな仕事を経験し、どのようなことを学びましたか?
『うるさら7』は開発、生産技術、製造など幅広い部門から約50人ものメンバーがかかわった大きなプロジェクト。大半が男性ですが、女性だからと特別扱いされることも、なめられることもなく、自分の担当を全うすべきだと考えているプロ集団なので働きやすかったです。先行段階では自分で試作機を作り改良するなど自分でできますが、年度開発は他部署の方にお願いしたり意見したりと、人とかかわることの難しさと楽しさを学びました。大切なのは一方的な意見を押し付けるだけでなく、問題解決の具体的改善案を考えるなど動いてもらうために努力すること。そして、多くの方の協力のおかげで難題を乗り越え、1号機が製造ラインから流れてきた時は全員で出迎え、記念写真を撮りました。
出産後も退職を考えたことはなく、会社の制度を活用し両立を図る
-出産後に職場復帰する時、利用した制度はありますか?
入社年6年目 の2014年2月に、子どもを出産。『うるさら7』という大きなプロジェクトをやり遂げた後だったし、妊娠がわかった時はうれしかったです。仕事を辞めることはまったく考えなかったですね。子どもが1歳になる翌年2月から保育園に預けて復帰しようと思ったのですが、すぐには保育園が見つからないと聞いていました。保育園探しをサポートしてくれる会社の制度「保活コンシェルジュ(女性活躍推進の取り組みの一環として、育児休暇から職場復帰する際に子どもを保育所へ入れるための活動のサポート)」を利用することもできたのですが、結果的には4月のタイミングで認可保育園に預けることに。職場復帰へのサポート制度があることがとても心強いと感じました。
-仕事と育児の両立で、悩みや困ったことはありますか?
復帰後、2年間は1日6時間の時短勤務でした。時短勤務はありがたいのですが、夫よりも早く帰るので、家事をすべて担うことになったのは正直、困りました(笑)。子どものお迎えの時間がせまって、仕事の途中でもやらなければならない仕事を残して帰路につかなければならない日もあり、落ち込んだりしました。出張が必要な場合は、私の代わりに後輩が行くことに。どうしようもないのですが、当時は正直、モヤモヤとした気持ちを抱えていました。職場復帰してからは、初めてのことを任されるのではなく、これまでの経験をベースにできる仕事を担当。かといって、単調でつまらないというものではなく、育児と両立しながらも緩やかに成長できる仕事を与えてもらっていたと思います。
そして、10年目に入社当初から希望していた商品企画を担当することになりました。ルームエアコンの先行段階での商品企画で、やりたかった仕事なので毎日が楽しいです。時短勤務からフルタイム勤務に戻したので、存分に仕事に打ち込むことができます。
-10年目で希望の仕事に就けた時、どう思いましたか?
1年目で商品企画を希望した時に、上司から「現場や技術を知ってからの方がいい」と言われましたが、本当にその通りです。技術をわからずに夢のような機能を企画しても非現実的。さらに、プロジェクトを通じて他部署の方とつながりを持つことができたり、コンセプトを考える段階から製造の方に意見を聞いたり、夢のような機能に対してこんなアプローチなら実現できると道筋が見えるようになりました。技術やものづくりの視点を持っていることが、私にとって大きな財産です。
時短勤務からフルタイム勤務になり、次の目標に向けて日々の仕事に取り組む
-就活時に、女性活用に関する制度についてチェックしましたか?
産休・育休制度について整っているのか確認しましたが、それ以外は自分が直面した時でないとわからないし、特に調べたりはしていません。ただ、入社してみてあらためて、女性が長く仕事を続けている先輩の女性社員も多い環境だと実感しました。女性活躍推進にかかわる研修にも参加させてもらっています。フォーラムや交流会を通じ、他社の女性管理職やリーダーと交流することができたことは、自分にはプラスです。
-今後の目標を教えてください。
商品企画の仕事に就いたばかりなので、あれこれ語れるまでに至っていません。今は、商品企画として、今までにない新しいエアコンを作るのが目標です。将来的には、開発チームの責任者として、一つの製品を作るまでのすべてに携わってみたいです。
年に一度取得できる5連休制度を活用し、山登りへ。北アルプスに登った時は、あまりの絶景に感動した。
ある一日のスケジュール
時短勤務からフルタイム勤務になったので、出勤までの朝の時間が忙しい。夫は家事を手伝ってくれるので助かるものの、平日は時間的なゆとりがない状態。最近は、泊まりの出張に行くこともあるが、その場合は夫に家事・育児をお任せ。休日は家族3人で出かけることが多い。
取材・文/森下裕美子 撮影/井原完祐