スタッフが成長し、喜ぶ姿を見ることが、何よりのやりがい
入社以来、エイチ・アイ・エスの海外ウェディング・ハネムーン専門店「アバンティ&オアシス」に勤務し、2013年春に入社10年目を迎えた奈良さん。海外ウェディングを検討中の新郎新婦の要望に合った挙式会場の提案から、航空券・ホテルの手配、挙式後のレセプションパーティーやブーケ、写真・動画撮影などのコーディネート、滞在中の観光や食事、ゴルフ、エステなどの手配まで、新郎新婦と列席者が素晴らしい思い出を作れるよう、一組一組に合ったプランを作り上げている。
「新郎新婦さまが何を重視されているのか、例えば、挙式なのか、現地での過ごし方なのか、ご両親に満足していただくことなのか、写真を美しく撮影することなのかなど、こちらから積極的に会話をして、ニーズを引き出していく。そうやってコミュニケーションしていく中で一組一組に合ったものを作り上げていくことが、本当に楽しいと感じています」
印象に残っているのは、配属後、初めて担当した顧客。列席者が100人以上という、海外ウェディングではほとんどない規模の手配を任された。
「通常、チャペルでの挙式に参加されるのは10〜20人ほど。多くて30〜40人です。上司のサポートを受けながら、全国各地にお住まいの列席者の手配をしていきました。これだけの人数ですから、お客さまからは毎日のように変更・確認のFAXが届きますし、お名前・年齢に間違いがないか、お子さまが幼児料金の対象に入るかどうかなどを確認していくのが大変で。トイレで密かに泣くことも少なくありませんでした。最終的にはすべてうまく進めることができ、お客さまからも『大変だっただろうけど、みんなに楽しかったと言ってもらえて、すごくいい式になった』と感謝の言葉を頂き、ほっとしたことを覚えています。お客さまとは今でもプライベートで食事をご一緒したり、ウェディングやご旅行のお客さまをご紹介いただけたりしているのは、うれしいですね」
その一方で、ミスが多く、最初の1~2年間はまともに仕事ができていなかったという。
「お客さまとお話しすること自体はとても楽しかったですし、お客さまのニーズにできる限り応えたいという思いは人一倍強く、その姿勢をお客さまに褒めていただくこともありました。でも、何組ものお客さまを並行して担当していると、何から手をつけていいのかわからなくなってしまい、見積書や請求書の記載ミスや、航空券を手配する際のお名前のスペル、日付のミス、航空券の発券もれなど、手続き上のミスを散発してしまって。各スタッフの挙式・旅行手配の記録をチェックし、手配や手続きの進捗(しんちょく)を管理する班長から叱られてばかりで、班長に褒めてもらうために頑張っていたと言ってもいいくらいでした」
ミスをしたときは、なぜ間違えたのかを徹底的に追究し、その都度改善策を考え続けたという奈良さん。また、商品やサービスについて疑問に感じた点をあいまいにせずに理由や背景を確認するとともに、休日には勤務先の近隣の競合店舗を見に行って接客や商品を見て、自社の優れた部分を把握するなどして商品知識や接客スキルも磨いていった。そうして、顧客とのコミュニケーションに技術が追いついてきたことを感じられるようになったのが、3年目のことだった。
「ほかの部署への異動も考え上司に相談した時、初めて、『今の部署で頑張ってほしい。期待している』という言葉をかけてもらったのです。これまで一切褒められたことがなかったにもかかわらず、こんな言葉をもらえて、やっと自分はまともに仕事ができるようになってきたことを実感しました。また、お客さまからも感謝の言葉を頂くことが増えてきて、もっと仕事ができるようになりたい、もっとたくさんの新郎新婦さまをご案内したいと思うようになってきたのです」
3年目に班長を任され、4年目にはセールスチーフ、5年目には所長代理へとステップアップ。7年目から所長を任されているが、初めて所長として勤務した店舗での苦い経験が、店舗をまとめる上での教訓になっている。
「私自身が売り上げ目標の達成を厳しく言われて育ってきたこともあり、スタッフにも、目標が達成できるよう厳しく言っていたのです。それに耐えられなくなったスタッフが、退職を申し出てきて…。一緒に頑張ろうと励ましたのですが、思いとどまってもらうことはできませんでした。その店舗は、スタッフが皆私より年上で、転職者も多い店舗。自分は若いスタッフが多い店舗しか経験していなかったため、同じ指導方法ではついてきてもらえないことを痛感しました。このときの、スタッフの経験や知識を尊重して、もっと話を聞くべきだったという後悔が、今、自分と価値観の異なるスタッフの話にもしっかりと耳を傾ける姿勢につながっていると思います」
一人ひとりの考えをしっかり聞くことに加え、スタッフを育成する上で心がけているのは、物事の背景を把握することだという。
「例えば、ミスが起こったとき、その原因がお客さまのご要望の解釈の仕方にあったのか、手続きなど技術面での知識が不足していたのか、お客さまとのコミュニケーション方法に問題があったのかなど、原因がわからないと指導できません。『なぜそうなったのか?』ということは、徹底して聞くようにしています」
そうしてスタッフがモチベーションを高め、成長していく姿を見るのが、今、一番の喜びだ。
「店舗の清掃から売り上げ目標の達成度合いまで、一つひとつ、細かく指導するため、スタッフからは『今までこんなに細かく言われたことはなかった』という言葉をもらうこともあります。それでも、スタッフの一人ひとりの考え方や価値観に合わせて伝え方・接し方を工夫しながら指導を徹底すると、スタッフがお客さまから感謝の言葉を頂いたり、できなかったことができるようなったり、個人・店舗の売り上げ目標を達成できたりする。そして、スタッフから『頑張ってよかった』と言ってもらえると、やってよかったなと感じます」
海外ウェディングに携わって10年。目標も広がっている。
「社内外でこの『アバンティ&オアシス』をより認知してもらえるよう、特に海外に店舗を広げていくことの力になれればと思っています。そして、日本の店舗と同様の質の高いサービスを現地でも提供できるように、現場の最前線にいるスタッフの指導に携わる機会を作っていきたいですね」
プレイングマネージャーとして、現在も一般スタッフと同様に多くの顧客と接している。
接客の合間に、航空券の手配など、契約後に必要な手続きを進める。挙式会場を決めてから航空券・ホテルなどの準備を進め、当日を迎えるまでの半年〜1年ほどの期間、1組の顧客とかかわっていくため、漏れのない進捗管理が求められる。
奈良さんのキャリアステップ
STEP1 入社1年目 東京都内の店舗に、一般スタッフとして勤務
1カ月間、「アバンティ&オアシス」に配属される社員を対象にした新入社員研修を受け、旅行・挙式手配や顧客対応について学んだ後、店舗に配属。新規顧客への挙式会場の提案から、航空券・ホテルの手配、レセプションパーティーや滞在中の観光や食事の手配などに取り組んだ。3年目には班長に昇進し、3~4人のメンバーをまとめることに。4年目には、セールスチーフに昇進した。
STEP2 入社5年目 都内の他店舗に異動し、所長代理に
店舗全体の売り上げ実績や目標達成率などの営業数字をまとめたり、スタッフの契約内容の確認をする機会も多く、店舗責任者の役割を知り、感覚を磨く機会となった。「ほかにも、ミスをしたスタッフに対して、どこまでが正確にできていて、どこが間違っているかという線引きを考え、判断する機会を与えられたことなど、成長の機会を頂いたことにすごく感謝しています」。
STEP3 入社7年目 都内の他店舗に異動し、所長に
初めて所長として勤務した店舗では、退職者を出す苦い経験も。半年後、新規開設予定の店舗に異動し、所長として立ち上げを担った。店内のレイアウト決めや、宅配便・通信環境の契約など、店舗開設に必要な手続きを進めながら、告知活動にも注力。3人のスタッフと手分けして店舗の最寄り駅沿線の「H.I.S.」十数店舗の朝礼に出向き、来店者に新規店舗を案内してもらうよう依頼することなどに取り組んだ。9年目に現在の店舗に異動し、9人のスタッフをまとめている。プライベートでは、9年目の2012年に入籍。
ある一日のスケジュール
奈良さんのプライベート
休日も出勤日と同じ時間に起き、洗濯・掃除をしてから夫婦で出かけることが多い。写真は、2013年の夏に群馬県みなかみ町でラフティングを楽しんだときのもの。夫も同業で、勤務シフトを決めるときにできるだけ休みを合わせるようにしている。
お酒を飲むのが大好きで、夏の休日は、ビアガーデンに出かけることも。「明治神宮外苑(東京都)にある森のビアガーデンがお気に入りで、夫婦でよく行っています」。
スノーボードも趣味の一つ。「夫婦ともに魚が好きなので、新潟へ行くことが多いですね。お酒と魚も一緒に楽しみます」。写真は新潟県のスキー場にて。
取材・文/浅田夕香 撮影/平山諭