メンバーとともにスキルアップし、より良いデザインを作っていくやりがい
従来のソーシャルゲームにはなかったビジュアルの美しさを特長としたカードバトル型ソーシャルゲーム『神撃のバハムート』をはじめ、さまざまなソーシャルゲームを開発・提供しているCygames。同社が開発するすべてのゲームのUI(ユーザーインターフェース)デザインをマネジャーとして監修しているのが中村さんだ。
UIデザインとは、コンピュータシステムの操作性にかかわるデザインのこと。画面に表示されるすべての情報について、ゲームのわかりやすさを促し、かつ、ゲームの世界観が表れるようにデザインすることが求められる。
「例えば、どんなにデザインが美しくても、ユーザーが画面を見たとき、すぐにタップできる箇所がわからなければ、良いデザインとは言えません。新しく開発するゲームであれば『やりやすい』『楽しい』、既存のゲームを改修するのであれば『前より良くなった』とユーザーに感じてもらえるよう、わかりやすく、使いやすいデザインを提案することを心がけ、メンバーにもアドバイスしています」
中村さんがUIチームのマネジャーとしてCygamesに入社したのは、社会人5年目が終わるころ。それまでは、Webデザイナー養成スクールの講師や、ソーシャルゲーム開発会社のデザイナーなどを務めてきた。「そこでの経験があったからこそ、マネジャー業務がスムーズにできている」と中村さんは振り返る。
「講師時代は、受講生、しかも自分よりも年上の社会人にわかりやすく伝えるにはどうすれば良いか、試行錯誤を重ねました。また、前職のソーシャルゲーム開発会社でゲームの細かな設定などを企画するプランナーを兼務した際、ほかのデザイナーから『何を作ってほしいのかわからない』と指摘を受けたのです。そこで、何が足りないのか、どうすれば的確に伝えられるか悩み抜きました。これらの経験が、今のメンバーとのコミュニケーションにも生きています」
今、メンバーに指示を出す際に意識しているのは、まず結論を伝え、その上で理由や背景、改善の方向性まで伝えることだ。
「デザインは、その良し悪しを感覚的に判断されてしまいがちですが、デザイナーにとっては、プライドを持って作ったもの。理由を示されないまま感覚的に否定されてしまうと、何をどう改善すれば良いのかわからず、不満を抱えたまま仕事をすることになります。だからこそ、何が画面をわかりにくくしているのか、どこに注意すればユーザーにとって使いやすいものになるのかは必ず説明しています。そうすれば、同じ間違いを繰り返さないことを意識できますから、成長スピードが速まると感じています」
メンバーの成長を促すため、1週間かけて各自で同じソーシャルゲームをプレイし、そのUIデザインについて全員で意見交換する時間を設けたり、メンバーごとにそれぞれ一段階上の課題を任せることなどにも取り組んでいる中村さん。自身も、仕事をする中で成長を続けている。その機会の一つとなったのが、1年目を終えるころに携わった『神撃のバハムート』のマイページの改修だった。ゲームのメニューやさまざまな情報が一覧できるマイページをより魅力的で使いやすいデザインに改めるべく、中村さんはUIチームの責任者としてプランナーやディレクター、プロデューサーなどのプロジェクトメンバーの意向を集約し、デザイナーたちを指揮した。
「マイページは、ユーザーが最も使う場所。したがって、デザインの新しさを出しながらも、既存のユーザーが違和感なく使えるボタンの配置やデザインをしなければならない難しさがありました。もちろん、ユーザーの要望にも応えなければなりません。ユーザーの声を直接把握しているプランナーやディレクター、プロデューサーへのヒアリングを重ねてページに盛り込むべき情報とそれぞれの重要度などを整理し、デザインに落とし込んでいきました」
その際、重視したのが、ゲームの世界観だったという。
「既存のデザインに新しい要素を加える際に大事なことは、そのゲームらしさ、すなわちゲームの世界観を表す要素がどこにあるのかを見極め、そこを外さずにデザインすること。そうすれば、誰がデザインしてもそのゲーム“らしさ”が引き継がれたデザインを作ることができます。そこで、リリース時にデザインを担当した社員に“バハムートらしさ”を表すポイントを聞き、得た情報を自分なりに整理してメンバーへの指示に落とし込んでいきました」
メンバーから上がってきたデザインの品質をチェックする際は、“バハムートらしさ”を表すポイントが押さえられているかを重視。リリースされたデザインは、ユーザーからも好評価を得たという。
「UIデザインは使いやすくて当たり前のものですから、一般的にユーザーから悪い部分の指摘はあっても、良い部分を直接ほめていただくことはほとんどありません。その中で、既存のユーザーから『前より良くなった』との感想が上がってきたと聞いたときはうれしかったですね。また、私自身、既存のゲームの大きな改修は初めてのことだったので、“バハムートらしさ”を出す要素を整理できたことや、要望も含めてユーザーの反響を知れたことは、次につながる経験だったと思います」
「一つのプロジェクトで何か問題が発生しても、別のプロジェクトでその予防策を張ることができるなど、全体を見て、対応を考えられるのがマネジャーの面白さ」と話す中村さん。今後も操作性の高いUIデザインを追求していきたいと考えている。
「当社はこれまでWebアプリ(※1)をメインに開発してきましたが、ネイティブアプリ(※2)の開発に着手したことで、スマートフォンに最適化されたデザインはまだまだ開拓の余地があることを感じています。というのは、Webアプリとネイティブアプリとでは、ユーザーの使い方や動作の反応に違いがあるのです。違いを把握し、日々、勉強を重ねながら、よりわかりやすく、使いやすいUIデザインを追求していきたいですね」
※1 ダウンロードせずにブラウザからアクセスするアプリ
※2 ダウンロードして使うアプリ
新卒で就いたのは、目指していた仕事とは異なる仕事。そこで得た知識や学びを糧に、今、望んでいたフィールドで活躍している経験を踏まえ、キャリアの積み重ね方についてアドバイスを頂いた。
「自分がいる場所で課題に感じたことに一つひとつ愚直に取り組んだからこそ、今の自分があると感じています。皆さんも、たとえ希望とは異なる仕事をすることになったとしても悲観的にとらえず、まずは目の前の仕事や課題に愚直に取り組んでほしいですね。そこで身につけられることをしっかりと自分のものにできれば、次のステップに自信を持って踏み出せるはずです」
メンバーからの相談に答える。日ごろからメンバーとの親睦を深め、困ったときにはいつでも気軽に相談できる雰囲気をつくるよう心がけている。
デザインの品質チェックはメンバーの中から選んだリードデザイナーに委ねているが、新規に開発するゲームのデザインは中村さんがチェックし、各担当者に直接修正を指示している。
中村さんのキャリアステップ
STEP1 社会人1年目 Web関連事業を行う企業に入社。デザイナー育成スクールの講師を務める
Webデザイナーを志望してWeb関連の制作、人材派遣、デザイナー育成スクール事業を行う企業に入社したが、配属されたのはデザイナー育成スクール部門。HTML、CSS、flash、Illustrator、Photoshopなどの講座を担当し、社会人の受講生に向けてWebサイト制作に必要な一連の知識・技術を教えた。その後、転職して母校の准教授のアシスタントに。学生の卒業制作のアドバイザーを務めた。
STEP2 社会人4年目 ソーシャルゲーム開発会社にデザイナーとして入社
昔から好きだったゲームの分野でWebデザイナーとして働きたいという思いから転職。UIやキャラクター、flash素材のデザインからflash制作、HTMLのコーディングまで、デザインにかかわる開発全般を担当した。約1年半の在籍中に3つのゲームの新規開発に携わり、2つめの開発ではプランナーも兼務。その際、デザイナーから指示のわかりづらさを指摘され、先輩に相談したり、自分が書いた仕様書を見直したりして伝え方を考え抜いた。一方で、より高いクオリティのゲームを制作している環境で働きたいという思いが募り、転職することに。
STEP3 社会人5年目 Cygamesに入社。UIチームのマネジャーを務める
社会人5年目が終わる2012年3月に入社し、当初からマネジャーを任される。当時、創業から1年足らずだった同社でまず取り組んだのは、制作フローやメンバー間の情報共有の仕組みづくり。プロジェクトごとにバラバラだった状況をまとめあげた。また、当時いた4人のメンバーはほぼ年上だったが、過去の経験を踏まえたコミュニケーションで関係を作っていった。現在は、約25人いるメンバーのスケジュール管理や制作物の品質管理、新規タイトル開発時のUIデザインの監修などを行っている。
ある一日のスケジュール
中村さんのプライベート
一人暮らしだが、実家と自宅がそれほど離れていないため、月に1回ほど実家に帰り、かわいがっている愛犬(写真)の散歩をする。「毎回必ず癒やされます!」。
週末は散歩に出かけることが多い。「最寄り駅周辺で穴場的なお店を発掘するのがマイブーム。最近見つけたお気に入りスポットは、海外の食材やお酒を取りそろえているお店です」。写真はお気に入りの飲食店にて。
年2〜3回、週末や有給休暇を利用して旅行にでかける。「国内旅行が中心で、2012年は沖縄や京都に行ってきました」。写真は2013年4月に訪れた静岡県・伊豆エリアにて。父親の定年退職を記念して家族で出かけた。
取材・文/浅田夕香 撮影/鈴木慶子