でぐち・ゆか●チェーンストア部門 チェーンストアビジネスユニット。三重県出身。31歳。京都女子大学現代社会学部現代社会学科卒業。2006年入社。学生時代にドラッグストアでアルバイトを経験。陳列の工夫やPOPの作成など店内を演出することでモノが売れていくのが面白く、販売にかかわる仕事がしたいと思っていた。現在は夫と3歳の娘と3人暮らし。
花王商品を手にとってもらう、「販売」という最終プロセスを担当
商品が生まれ、消費者の手にわたるまでには、「研究開発」「生産」「マーケティング」「物流」「販売」という5つのプロセスがある。花王カスタマーマーケティングが担っているのは、花王商品と消費者をつなぐ「販売」という最終プロセスだ。
学生時代にドラッグストアでアルバイトをし、自分が店頭に並べた商品が売れていくことに、純粋に喜びを感じていたという出口さん。自分自身が使いやすく、胸をはって勧められる商品を扱いたいという思いが、入社を決めた理由だった。
入社後に配属されたのは、近畿支社のマーケティング部。「キュレル」(乾燥性敏感肌を考えたスキンケア商品)、「めぐりズム」(蒸気でホットアイマスクなど)のブランドを担当し、チェーン本部への営業担当であるアカウント担当や店舗の営業担当であるストアアドバイザーに、ブランド情報や販売戦略などを発信していく仕事を任された。
「ブランドイメージやコンセプトをしっかり伝え、アカウント担当がチェーン本部に提案しやすいよう資料を作成することなどが私の仕事でした。店舗に置いていただく商品のチラシを自らデザインして作成したこともありましたが、あろうことか、商品名の漢字に誤植があり、ご販売店さまからお叱りを受けたことも…。花王の商品開発担当をはじめ、多くの人がかかわってできた商品の価値を消費者に正しくお伝えするのが私の仕事。その責任の重さを痛感する出来事でした」
入社4年目には、マーケティング部の中でもエリアやチェーンごとの特性を考えた販売戦略を提案する部署に異動し、近畿地域でシェアの高い6つのチェーン店舗を担当した。
「花王の商品は、水とともに使うものが非常に多いため、環境への意識を率先して高めていこうというグループ全体の思いがあります。そこで、担当していたチェーンさまと“花王”と“エコ”をテーマにキャンペーンができないかと考え、詰め替え商品や、すすぎが1回で節水できる『アタックNeo』などの洗濯用洗剤などを売り出す企画を立案。マーケティング部とアカウント担当とが一緒になって動き、そのほかのエリアの店舗に広げていきました。花王商品を販売するだけでなく、エコも啓発する。それがやがて、チェーンさまや花王のイメージアップにもつながり、地域に貢献できる。大きな達成感をくれた仕事でしたね」
その後、東京の本店に転勤となり、全国に店舗を持つ大手コンビニエンスストアチェーン本部の営業であるアカウントを担当することになった出口さん。スキンケアの「ビオレ」「ニベア」と生理用品「ロリエ」を受け持ち、チェーン本部にプレゼンテーションをしたり、販促施策の提案をするのが主な仕事だ。
何種類もの商品が比較検討できるよう置かれているドラッグストアなどとは違い、厳選された商品しか置かれないのがコンビニエンスストア。花王の商品を選んでもらえるか否かによって売り上げが大幅に変わるため、棚替えシーズンの春と秋の前にあるプレゼンテーションには力が入る。
また、社会の変化に伴い担当チェーンがどんな戦略をとるかによっても、提案内容は大きく変わっていく。
「例えば、働く女性が増加しているという社会変化に対応して、従来男性のお客さまが多いコンビニエンスストアでも、女性に向けた商品をチェーンさまが強化するという戦略をとることになれば、私たちの提案内容も変化します。どんな花王商品があれば、コンビニに立ち寄る女性が満足できるか。例として、メイク落としと洗顔が一度に済む洗顔料や、出張時に使いやすいオールインワン化粧水、パソコンで疲れた目を癒やすアイマスクなどの取り扱いを、これまで提案してきました。働く女性を24時間サポートできる品ぞろえについて日々考えていると、ヒントは自分自身の生活にあることも多くあります。自分の想いがチェーン本部に伝わり、その結果、商品が店舗に並ぶと、とてもうれしく、やりがいを感じます」
入社6年目から1年半、産休・育休を取得し、現在は1児の母としてフルタイムでの営業の仕事と子育ての両立を続けている。「帰宅しても分刻みのスケジュール」でありながら、仕事を続けることへの強い意識は、子どものころから働く母と祖母を見てきたことと、大学時代に出会ったゼミの先生の存在が大きいという。
エントリーシートを50社近く出しても内定先が決まらず、不安で落ち込んでいた就職活動生のとき、あなたならできると背中を押してくれたのが、当時所属していたゼミの教授・嘉本伊都子先生だった。
「さまざまなリスクとともに生きていく中で、女性が自立していることの大切さ」を教えてくれたのも、家族社会学を研究する嘉本先生だった。卒業論文は、専業主婦のライフスタイルと、「子どもを産んでもキャリアを継続する」という現在の出口さんのライフスタイルとの比較検討をテーマにした。大学時代に「女性の就労と育児」について理解を深めたことが、就職後の仕事に対するスタンスに大きな影響を与えているという。
「好きな仕事を続け、働く姿を娘にも見せたい」という思いは、母親になったことでますます強くなった。「今は同じ職場の方々や夫に協力してもらっているが、いつか恩返しができるように頑張りたい」と話す。
「花王の商品がすごく好き。自分が提案した商品が店舗の売り場に並んでいるのを見ると、もっと商品を広めたいという気持ちが増していきます。自分自身が信頼できる。そんな商品を扱えるのは幸せなことです」
コンビニエンスストアチェーン本部へ、新商品の商談。商品特徴や消費者の動向などを説明する。自分自身が実際に使ってみた感想も伝えることができるのが、この仕事の魅力の一つ。
花王の商品開発担当を含む社内メンバーと、来シーズンに向けた新商品の打ち合わせ。担当チェーンの意向を社内に伝え、販売施策を検討するのも大切な仕事。
出口さんのキャリアステップ
STEP1 入社1年目、近畿支社マーケティング部ブランドマーケティング担当に
「キュレル」、「めぐりズム」を担当。そのブランド、商品の良さを、店舗を担当する営業に伝えるべく奮闘。
STEP2 入社4年目、近畿支社マーケティング部トレードマーケティング担当に異動
近畿地方で有名なチェーンを担当し、チェーン本部を担当する営業と共に、エリアやチェーンの特性に合わせた新商品提案や販促企画を考える。「自分が担当するチェーンさまを持てたことがうれしかったです」。
STEP3 入社5年目、よりスケールの大きい仕事がしたいと希望していたところ、東京へ転勤
本店のチェーンストア部門ナショナルコンビニエンスグループに異動し、大手コンビニエンスストアを担当。「さまざまなコンビニエンスストアに立ち寄り、どんな商品が置かれているかを見るのが習慣になりました」。
STEP4 1年半の産休・育休を経て、入社8年目で現職に復帰
復帰直後は、家から近い保育園に入れられなかったため、花王グループ社員が利用できる企業内託児所「メリーズガーデン」を利用。少人数制で恵まれた環境だったが、子どもを連れて通勤するのはとても大変だった。「通勤ラッシュ中に、娘が騒いだらどうしようと毎朝、緊張感でいっぱい。子どもを連れて通勤することの大変さを痛感しましたが、あの経験を経て心身ともにたくましくなりました」。
ある一日のスケジュール
出口さんのプライベート
1年間お世話になった花王グループの企業内託児所「メリーズガーデン」にて。
毎日いろんなプログラムを用意していただき、娘も楽しく通っていた。メリーズガーデン時代の友達とは、今でも家族ぐるみで遊んでいる。
平日の掃除は「おそうじロボット」が大活躍。ママ友に勧められて買ったが、毎日使っている。平日はなかなか掃除ができないので、共働き家庭にお勧め。
独身時代はお城などに旅をするのが好きで、よく行っていた。写真は地元の伊賀上野城(三重県)。出身校の近くだったので、なじみ深いお城。
取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子