販売から仕入れ、リユース事業まで、洋服に関するあらゆる場面に立ち会う
洋服を選んでいるときのきらきらとした表情、気に入ったものに出合ったときの笑顔。そんな、お客さまの喜ぶ顔に出会いたい、という思いは、入社28年たった今もぶれたことがない。CSR推進部で、服のリユース事業に携わる今、あらためて「商売の原点」に触れる機会が多いと話す瓦さん。
「現在、取り組んでいるのは『循環型ファッション』の実現。衣料品の下取りによって、『タンス在庫を整理したい』というお客さまのニーズに応える一方、衣料品の7割以上はゴミとして捨てられているという社会の課題にも向かい合います。そして、下取りした衣料品は東日本大震災の復興支援にも役立てています」
衣料品が詰め込まれた段ボールが、体育館に届く。そんな支援のスタイルが多かったなか、丸井グループでは「買い物体験こそが大切」という信念のもと、避難場所だった体育館をひとつの店舗のように仕立て、洋服を展示し、フィッティングルームを設置。全身ミラーも置いて、「服を選ぶ」楽しみから提供しようと実行してきた。無料で選んでもらっていた服は、2013年から有料で買い取りというスタイルに変化しているが、「ありがとう」と屈託のない笑顔を浮かべる人の温かさは、震災から3年以上たった今も変わることがない。
「“洋服”は、食べ物や住居のように、生きるために絶対必要なものではないかもしれない。でも、被災地の方が心から楽しそうに服を選んでいる姿を見て、『洋服が持つ力』を実感しました。こんなふうに、人を元気づけるものだったんだ、と販売の原点を見た気がしましたね」
学生時代から洋服のセレクトショップでアルバイトをしてきた瓦さんにとって、「目の前でお客さまが喜んでくれる」ことは、働くモチベーションの源だった。
販売がしたい!という希望がかない、入社1年目に配属されたのは、マルイシティ渋谷の婦人カジュアル担当。年次に関係なく裁量権を与えてくれる職場で、夏になると水着の補充発注をやらせてもらったり、売り上げを上げるため店内のディスプレーを考えたりと、毎日が本当に楽しく過ぎていった。
しかし、2年目を迎える春、思いもしない異動を告げられる。人事部教育課で、昇進試験や社内研修を担当することになったのだ。
「お客さまと離れるのが寂しくて寂しくて、店頭での最終日には、お客さまをお見送りしながら泣き崩れたほどでした。『私は販売が好きだったのに』という思いは異動してからも強く、働く意欲は低下。いわば、ふてくされ状態です。そんな生意気な2年目だったのに、周りの先輩が本当に優しく、根気強く仕事を教えてくれ、今でも頭が上がりません」
また、社内研修を担当する部署だったため、あらゆる部署の目上の先輩と触れ合う機会も多く、顔と名前を覚えてもらえたことが、その後いろんな部署に異動した際に役立ったという。何より、このときの経験から、「どんな仕事も自分次第でプラスにもマイナスにもなる」と考えられるようになり、何事にもポジティブに取り組む大きなきっかけとなった。
入社3年目に丸井川崎店の新規オープンに携わり、あるブランドのショップ店長を務める。商品の発注から売り場づくりまで担当する中で、「新たな商品を自分で見つけていきたい」という思いが強くなっていったという瓦さん。ショップ店長を3年続けたのち、念願がかない商品の仕入れを行うバイヤーになった。
「限りある仕入れ枠と売上予算の中で、売れる商品をどう仕入れるのかジャッジするのがバイヤーの仕事。丸井のお客さまのニーズを分析し、『こういうアイテムが売れるので、コラボの商品をつくりませんか』などとお取引先に提案していきます。会社の看板を背負って商談に行く責任は、それまで感じたことのない重みがありましたし、提案、発注したからには、売れなければいけないというプレッシャーも大きい。だからこそ、お客さまが喜んで手にしてくださったときの達成感は、何事にも代えられないものがありましたね」
仕入れ、販売と経験してきた瓦さんが、さらに大きな責任のもと配属されたのは、商品企画部商品企画課。来シーズンどのような商品が売れるのか、お客さまのニーズの分析、世の中の動きをもとにした仕掛けづくりまでを手がける仕事を任されたのだ。
「商品戦略を立て、販促を巻き込んで、会社全体に企画を提案していく、一大プロジェクトでした。華やかな仕事のようですが、実際は、寝る間も惜しんでリサーチを重ねる日々。海外に行って、流行の色や素材についてヒアリングしたり、展示会に出向いて最先端の動向をチェックしたり。また、日々通勤する方たちの服装を写真におさめ、お客さまのニーズが季節ごとにどう変化しているのかを分析しました。商品戦略ですので、役員へのプレゼンテーションを経て、現場のバイヤー、販売スタッフに『こういう方向で売っていきましょう』と、かじをとらなくてはいけません。中途半端な分析はできない、と大きな責任を背負いながら仕事を進めたことで、『やりきる』厳しさと面白さを知った経験となりました」
入社以来、コンセプト立案から、商品企画、仕入れ、販売、そしてリユースと、洋服に関しての全工程を経験してきた瓦さん。新しい部署に行くたびに、わからないことにぶつかり、戸惑うことも多かった。2007年に神戸マルイの店長として異動になった際は、店舗に出るのは16年ぶりだった上、300人弱の販売スタッフを持つマネジメント職は初めての経験。店長経験のある先輩社員に話を聞きに行きアドバイスをもらうなど、常に変化と成長が求められた。そんな刺激にあふれた環境にいられることは、瓦さんにとって、丸井グループで働く大きな魅力だという。
「先輩から代々伝えられている言葉に、『向き不向きより前向き』というものがあります。異動も多く、お客さまのニーズに合わせて常に変化していく業種だけに、適応力は求められますが、だからこそ、長く働いていて飽きることがない。どんな環境でも、自分が吸収しようと前向きでいれば、周りが必ず手を差し伸べてくれるし、思いもしない景色が開けることがあります。やらないで後悔するより、やって失敗した方が成長できる! これからも、貪欲に新しい仕事にチャレンジしていきたいですね」
部署のメンバーと、取組みの進捗を共有するミーティング。リユース活動とはいえ、事業の一環であるからには利益を出すことが大前提。数字の管理も大切な仕事だ。
店頭での衣料品下取りや、丸井店舗でのチャリティーバザーの開催スケジュールや内容を確認する。
瓦さんのキャリアステップ
STEP1 入社1年目でマルイシティ渋谷婦人カジュアル担当
数日間の入社後研修ののち、すぐ店舗に配属になる。接客と並行しながら、メーカーに電話して、売れ行き好調な商品を追加発注したり、売り場のディスプレーを考えたりと、さまざまな業務を経験。「仕事は責任を負ってやってみて初めてできるようになる」という指導方針のもと、やりがい十分な職場だった。
STEP2 入社2年目に人事部教育課に異動
思いがけない異動で、モチベーションが一時低迷。仕事ができる先輩方に囲まれ、「自分が主体的に取り組まなければ、仕事から何も学べない」ということを知る。社内昇進試験、研修を担当し、他部署の先輩に顔と名前を覚えてもらったことが、その後の大きな糧となる。
STEP3 丸井川崎店で婦人ブランド担当になり、売場に戻る
新店舗オープンのため、3年目に再び販売の現場に戻る。売場づくり、商品の発注など、店舗を運営するためのあらゆる業務を担当。季節ごとにどんなアイテムが売れているのか、データを分析し、発注を進めるなかで、バイヤーをやってみたいという思いが強くなる。
STEP4 婦人用品部ブランドのバイヤー担当になる
仕入れの本部に異動し、バイヤーに。限られた仕入れ枠、売上予算の中で、いかに売れる商品を見つけてくるかが仕事の醍醐味。ニットを得意とするブランドを担当し、その強みを生かしたコラボ商品を企画したところ、お客さまのニーズと合致して売れ行き好調に! 「そのブランドの良さを引き出そうと企画したものがヒットしたのは、すごくうれしかったですね」。
STEP5 商品企画部商品企画課に配属になる
婦人服担当の商品企画を任され、来シーズン何を売っていくのか、コンセプトから立案する仕事に就く。メンバー3人で、あらゆるブランドの動向、色や素材の最先端情報、消費者ニーズの洗い出しを行い、まさに睡眠を削って仕事に取り組んだ日々。プレッシャーの大きさと比例して、やりがいも大きかった。
STEP6 婦人用品部ブランド課を経て、神戸マルイの店長に
お取引先への出店交渉を担当する婦人用品部ブランド課にて、20人のメンバーを持つ課長に。その後、神戸マルイの店長に抜擢され、16年ぶりに店舗に立つことになる。自分が直接できることには限界があり、300人弱もの販売スタッフが、楽しく働ける環境を用意することが自分の仕事だとマインドチェンジ。ショップを回りながら、こまめにスタッフとコミュニケーションを取り合い、「いつもありがとう」と口に出して伝えることを心がけた。「スタッフが笑顔でいることが、お店の雰囲気を明るくし、店舗の売り上げ拡大につながることを実感しました」。
STEP7 ブランド開発事業部の部長を経て、CSR推進部の部長へ
セレクトショップの新規立ち上げを担当するブランド開発事業部を経て、「循環型ファッション」を手がけるCSR推進部の部長になる。丸井グループだからこそできる「本業を通じた社会貢献」に、やりがいを感じている。
ある一日のスケジュール
瓦さんのプライベート
2013年10月に開催された、CSR推進部のメンバーとのBBQパーティー。真ん中に座っているのが瓦さん。同僚の息子さんと笑顔でピースサイン。
甘党の瓦さん、パンケーキにハマり中。おいしいカフェがあると聞けば、散歩がてら出かけて実食! 「都内のパンケーキ、けっこう食べ尽くしましたよ~」とにっこり。
2013年8月の夏休みには、三重県伊勢市に住む元同僚の友人宅に遊びに行った。夫婦岩をバックにぱちり。
取材・文/田中瑠子 撮影/早坂卓也