安全で安心できる食の提供を、大消費地に広げていく
学生時代のJA全農に抱いていたイメージは、「生産者と消費者の間で経済事業を行う団体」だった。入会したら、「生産者と消費者をつなぐイベント企画や広報活動」などを本所がある東京で行うことになるのだろうと漠然と考えていたという。
しかし入会後、実際に配属になったのは、JA全農の中でも現場の最前線である神奈川県の大和生鮮食品集配センター(現在、各センターはJA全農青果センター株式会社に移管している)。北海道から九州、沖縄まで、JA(農協)、経済連(都道府県経済農業協同組合連合会)を通して全国の青果物が運び込まれるこの拠点で販売促進部に所属し、量販店に商品提案や配送手配、クレーム対応などを行う営業担当を任された。
「同期は50人いましたが、そのうち女性は4人。女性総合職としては初めての採用でした。人事部も気を使ったのか、新人研修の後呼び出されて、配属される部署について説明を受けました。予想していなかったのが『スーツはいらない』『勤務時間帯は朝7時から15時まで』の2点。実際、配属されると、職員の皆さんは、作業服でセンター内を走り回っている。就職活動の時に抱いていた、“大手町でスーツ・ハイヒールを履いて颯爽(さっそう)と働く”イメージは、すっかり崩れました」
当時を、そう笑顔で振り返る中島さん。
たった一人の女性職員で、かつ青果物に特別な知識があるわけではなかった新人時代。スーパーのバイヤーや小売店の方々に心配され、怒られることも多々あったが、仕事上、女性だからと苦労したことはないという。
青果物の営業で最も大変なのは、商品の入荷が天候に大きく左右されるということだ。スーパーの商品部は、商品が納品される1~2週間前には、特売品目の仕入価格を決定し、お客さまに向けたチラシを作成する。「サラダ関連の特売でキュウリ1本○円、トマトMサイズ2個○円、レタス…」と、取引先バイヤーを相手に、各品目を取り扱う部署から得た出荷動向や天候予想を加味しながら商談・交渉を行うが、『天候の影響で、予定していた特売用の商品が大量に足りない』という事態は日々発生する。
「イレギュラーの連絡が産地から届いたとたん、集配センターは一気に慌ただしくなります。いくつかの市場に掛け合って、ようやく納品が間に合うことがわかったら一安心。そうこうしているうちに、1日はあっという間に過ぎてしまうんです」
販売促進部の仕事は取引先との商談や商品の配送手配だけにとどまらない。取引先スーパーに出向き、納品した商品の品質確認、売れ筋商品など消費動向もチェック。そうした情報を品目部署や産地に伝えて新たな品種提案や販売方法の参考にすることも多い。
「例えば、JA全農『営農・技術センター』が試験栽培した新しい品種のキャベツ “サクサクの食感で甘くておいしいキャベツ”を取引先に提案する場合は、実際に取引先バイヤーにも食べてもらい、店頭で売れるか、売ってもらえる場合はどれくらいの数量で、どのような売り方をするかを決めていきます。それから栽培してくれる産地を探して、翌年に作付け、収穫物を納品していくという流れになります。天候の影響もあり、安定して供給できる“商品”になるまではとても時間がかかります。だからこそ、店頭に並んだ新商品を見ると、感慨深いものがあります」
大和生鮮食品集配センターで6年間過ごしたのち、名古屋支所で加工用青果物の集荷や販売を担当。その後、埼玉県戸田市にある東京生鮮食品集配センターに異動になり、入会して16年間、産地から届く新鮮な青果物に向き合う仕事が続くことになった。
現在は、東京・大手町の本所にて、安全・安心な国産農畜産物をより多くの消費者に届けるべく、JA全農の直販グループ会社と連携して生協や量販店などへの営業推進を行っている。
主な業務は、全農フェア・国産農畜産物商談会や、生協との産地交流会・協議会の企画や運営、新規取引先の開拓、新規商品の開発や提案と多岐にわたる。また、販売力強化の視点から、JAグループ販売関係部署の研修企画も担当している。
「全農グループの商品を複数品目(精米・青果物・食肉・鶏肉・卵・乳製品)で取り扱っていただいているお取引先店舗や生協さんの宅配を利用されている消費者の皆さんに、JA全農の商品を身近に感じていただくため、定期的に『全農フェア』を開催しています。そこでは、精米、青果物、食肉、鶏肉、卵、乳製品を使った、簡単でおいしい料理法の提案などを、お取引先や直販グループ会社と連携して企画。また、年1回、全国のJA・生産法人が東京国際フォーラムに集まり、量販店、業務用加工業者、レストラン事業者、海外事業者などに向けて商品展示を行う国産農畜産物商談会も企画します。2014年3月の来場者数は2日間で4500名。2014年で第8回を迎え、お客さまからの商品の引き合いも着実に増えてきています」
生協との産地交流会の取り組みも毎シーズン実施し、「国内自給率の向上」に向けて、飼料用米を給餌した畜産物の消費拡大を協力して進めている。生協職員や組合員が産地を訪問し、JA・生産者との交流により双方の情報交換を行う貴重な場だ。
新規商品開発では、生食用や加工用の野菜、調理用途に適したお米など、JA全農『営農・技術センター』での作物の試験栽培、食味検査、総合的な優位性検証などを経て、取引先・産地に提案し、年1作のチャンスの中で順次企画を進めていく。天候の影響もあり、技術・時間をかけての売り場プロデュースとなるのだ。
「私の今の仕事内容はこんな感じなのですが、『生産者と消費者をつなぐ懸け橋』という大学時代におぼろげに感じていた全農の役割を、体感しているような気持ちです。自らが心に思ったことは、月日と努力を重ねることで、自然とその方向に向かっていくのかもしれませんね」
「全農フェア」を開催。消費者に国産農畜産物の安全・安心をアピールできる貴重な場だ。精米・青果物・食肉・鶏肉・卵・乳製品の各売り場は離れていても、簡単でおいしい料理法を提案するなど、お客さまに商品を手に取ってもらえるよう直販グループ各社で連携。
6人のメンバーと、次回の全農フェアについて打ち合わせ。前回企画での課題・改善事項など、情報共有も欠かせない。
中島さんのキャリアステップ
STEP1 入会後1年目に神奈川県の大和生鮮食品集配センター販売促進部に配属になる
大手町のビジネスパーソンになれると思っていたら、JA全農の現場の中でも最前線の集配センターに配属され、イメージとかけ離れた職場環境にしばし戸惑う。量販店への青果物販売・営業担当として、取引先との商談や配送手配、クレーム対応のほか、商品作りに関し、産地・生産者・全農技術部門と連携、売り場での宣伝販売など、現場力を身につけていった。
STEP2 入会7年目、名古屋支所 園芸農産部に異動になる
名古屋に異動し、餃子用キャベツ、スープ用玉ねぎなどの加工用青果物の集荷や販売、量販店への青果物販売を担当する。加工用青果物の取り組みは、経済連(都道府県経済農業協同組合連合会)を通じJA・生産者にキャベツ・玉ねぎを契約出荷してもらうもので、例えばキャベツではシーズン前に800トン程度を産地・取引先と契約。雨が多ければ収穫後の玉ねぎが乾かなかったり、キャベツの収穫が前倒しになったりで、イレギュラー対応に追われることもしばしば。
STEP3 入会9年目、埼玉県戸田市にある東京生鮮食品集配センター営業開発部に異動
営業開発部として、新品種・新商品の開発、それらの商品をパッケージして取引先の量販店に提案するなど、新しいマーケットの開拓に力を注ぐ。一方、学校給食の原材料、インターネット取引商品、輸出向け商品なども幅広く担当。
STEP4 入会13年目、東京・大手町の本所・総合企画部配属を経て、大阪青果センターで課長に
集配センターを離れ、本所で全農の事業方針を打ち立てる総合企画部に異動になる。全農各部門との協議・相談内容、外部有識者からの意見を方針に反映させること、災害対策の現状を当該部署と確認するなど、重要な要綱作成の仕事に携わる。2年の本所勤務を経て、大阪青果センターに異動。生協への青果物販売・営業担当部署の課長として赴任。
STEP5 入会19年目、東京・大手町の本所に戻り、現部署へ
販売企画課に異動後、3年後に課長となる。国産農畜産物の販売力強化の重点施策に向けて、JA全農直販グループ会社の売り上げ拡大のための営業支援を行っている。課のメンバーは7名。生協や量販店などの取引先総合窓口として、全農フェア企画、新規商品・取引先の開拓、産地と取り組みを行っていただいている取引先・消費者との産地交流会、JAグループ販売関係部署の研修企画なども担当している。
ある一日のスケジュール
中島さんのプライベート
料理を勉強中。30分以内で作れる、おいしそうなレシピが満載の『小林カツ代のあっという間のおかず』(大和書房)を片手に奮闘。旬や素材の持ち味を生かせるお料理をたくさん作れるようになりたい!
2014年のゴールデンウィークには、夫と長野の善光寺へ。独身時代は一人で国内・海外旅行も楽しんだ旅行好きだ。
夫が撮影した、スカイツリーに触れているような一枚。晴れた休日にはリュックを背に散歩に出かける。
取材・文/田中瑠子 撮影/早坂卓也