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Channel: WOMAN’S CAREER –就職ジャーナル
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東宝株式会社

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もり・はるか●演劇部 シアタークリエ 営業係。群馬県出身。27歳。明治大学文学部文学科卒業。演劇学専攻。2010年入社。中学生のころ、初めて観たミュージカルに魅了され、高校ではミュージカルを公演していた音楽部に所属。大学では、演劇の歴史やシェイクスピアの戯曲などを学ぶ演劇学を専攻する。さらに地元のミュージカル劇団に所属し、年6回の公演を4年間続けるなど、演劇への情熱は消えることなく、熱意そのままに同社に入社を決める。現在は、夫と1歳の娘と3人暮らし。

「またここで演劇が観たい」と思わせる、心地よい空間を作り上げたいく

12歳のとき初めて観たミュージカルが、森さんの原点だ。全国公演を続ける人気劇団の地元・群馬公演を観て、音楽、ダンス、演劇がすべて詰まったステージに心を奪われた。高校ではミュージカル公演を行う音楽部に入部し、自らが演じる側に立ち、ますます舞台の魅力に引き込まれていく。

演劇学を学べる学部があると知り、上京を決意するも、大学時代は群馬を拠点に活動するミュージカル劇団に所属。長期休み期間には地元に帰り、週5日の練習を重ねて、年6回公演に全力を注いでいた。

「演劇はこんなに楽しいのに、周りの友人の中には『劇場に足を運んだことすらない』という人が少なくありませんでした。もっと多くの人に演劇を観てほしい、と思う気持ちが、入社の大きな決め手でした」

 

2カ月間の研修を経て、配属されたのは演劇部宣伝室。森さんを含む7人の社員で、演劇の宣伝にかかわる業務をすべて行うため、「新人だからゆっくり学ぼう」と思っている余裕はなかった。しかし、任される仕事が多かったからこそ、自分で考え、仕事を進める力が身についたと話す。

「チラシの作成、製作発表やイベントの企画と運営、雑誌やテレビへのパブリシティなどが主な仕事でした。1年目から、ミュージカル『RENT』や『レ・ミゼラブル』の宣伝に携わり、作品にはとても恵まれていましたが、演劇はメディア側から取材依頼が来ることはほとんどありません。雑誌を買い込んで、『この作品には、このメディアが合っているのではないか』と考え出版社に電話をかけていくのです。宣伝してもらえることになれば、出演俳優のマネージャーさんと取材日程を調整するなど、あらゆる人を巻き込んで、パブリシティ内容を考えていきます」

 

演劇の宣伝の難しいところは、公演まで、作品の全貌がわからないところにあるという。上演が決まったら作品のイメージでチラシを作成しなくてはならないし、稽古が始まる1~2カ月前にはパブリシティを仕込まなくてはならない。

そこで、まだ台本を読み込んでいる最中の俳優にインタビューし、台本の感想や舞台への意気込みを宣伝材料として発信したり、プロデューサーや演出家に作品の魅力を聞いて宣伝内容を決めたりと、臨機応変かつ想像力を働かせて仕事をすることが求められる。

作品ブログの発信など、さまざまな手段を活用しても、お客さまに響いている実感が持ちにくいのも、宣伝という仕事の難しさだったと森さん。それでも、地道に仕事を進める中で、お客さまからうれしい言葉をもらったことがある。

「『RENT』では公演ブログの執筆を担当しており、ブログ素材のために、千穐楽(せんしゅうらく。演目の最終日)のカーテンコール映像を撮影しに、名古屋の劇場に行ったことがありました。そこで、あるお客さまが『あなたが、公演ブログを書いている方?』と話しかけてくださったのです。劇場内で撮影をしていたのでピンときたのでしょう。『あの公演ブログで、出演者のことを魅力的に紹介してくださったから、実際の作品もすごく楽しめました。ありがとうございました』と、思いがけず、感謝の言葉を頂いたのです。お客さまにどれくらい届いているんだろうと、もどかしさを感じることが多かったからこそ、直接頂いた言葉は、鳥肌が立つくらいうれしかったのを覚えています」

 

3年目になると、社内ジョブローテーション制度(入社4年以内で、営業部門、劇場部門、管理部門内での異動が行われる)により、演劇部シアタークリエ(同社が持つ劇場)の営業係に配属になる。

任されるのは、公演がある日の劇場運営や、先の公演の券売業務など、お客さまと直接触れる現場。席を案内するアルバイト20人をまとめるのも森さんの役割だ。

「宣伝として携わった『RENT』の再演に、今度は劇場営業係として携わることになりました。販促企画として、日比谷シャンテのカフェで劇中に登場するハンバーガーを販売してもらったり、八重洲ブックセンターで作品パネルを展示するコーナーを作ってもらったりと、コラボ企画の立案と実行にはとてもやりがいを感じていました」

シアタークリエで少しずつ仕事を覚えてきたとき、森さんのキャリアに大きな変化が生まれる。娘の出産のため、産休と育休の取得を決めたのだ。

 

入社3年目で1年間の休みをもらうことに、不安と焦りと葛藤は大きかった。不安のあまり、先輩社員に相談しながら泣いたこともあったという。

「やりたかった仕事をさせていただき、仕事もちょうど覚えてきたタイミングで、周りの先輩への感謝の気持ちも大きかったんです。加えて、1年間お休みしたら、自分の成長が止まってしまうんじゃないか。12人いる同期たちからも置いていかれてしまうんじゃないか。当時はそんなことばかり考えていました」

そんな中、「焦らずに長い目で見てごらん」という女性の先輩の言葉に背中を押されたと話す。

「30代、40代と仕事を続けることを考えたら、20代後半で出産し、戻ってくるという人生の選び方もまた素敵なことだよ、と言われたんです。子どもがいることで、仕事に新しい気づきが生まれるはずだし、森さんらしい働き方ができるはずだと。その言葉で、ふっと心が軽くなりました」

 

現在は、朝10時から16時45分までの時短勤務で、シアタークリエ営業係に復帰し、公演を控える3作品を担当している。産休、育休の1年間を経て、子育てと仕事を両立している今、予期せぬことに臨機応変に対応する柔軟性は、以前より数倍ついたそうだ。

「子どもという、まったく予想がつかない行動をする存在と向き合っていることで、お客さまからのさまざまな要望や、アルバイトメンバー20人から『こういう状況ですが、どうしたらいいですか』と決断を迫られるときにも、瞬時に判断し、指示を出せるようになってきました」

また、職場復帰してから、入社当時に抱いていた「もっと多くの人に演劇を楽しんでもらいたい」という気持ちを、あらためて感じるようになったという。大きな変化は、母親になったことで、「0歳児や1歳児を抱える親であっても、気楽に観劇できるような環境を用意したい」と切実に思うようになったことだ。

「作品は、現場のキャストやスタッフはもちろん、企画、宣伝、制作など、社内のさまざまなセクションで多くの人が携わり、苦労を重ねた上にでき上がっています。その作品をひとりでも多くの方に届け、満足していただくために、劇場を快適で過ごしやすい場所に作り上げることも、劇場で働く私たちの大切な仕事です。今後は『“シアタークリエに”演劇を観に行こうか』と劇場そのものを選んでもらうために、より心地よい空間を提供していきたいですね」

 

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先の公演の券売スケジュールが決まったら、各プレイガイドや募集団体へのチケット委託作業を行う。ほかにも、チラシの管理や発注、DMの作成など、劇場運営にかかわる細々とした仕事も多い。

 

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観劇に来たお客さまを会場へご案内。終演後には、公演を楽しみにしてきたお客さまから、じかに感想を頂くこともあり、身が引き締まる思い。

 

森さんのキャリアステップ

STEP1 入社1年目、2カ月の研修を経て、演劇部宣伝室に配属される

同期は12人。森さんのように映画や演劇が大好きで入社した人もいれば、アルバイトに全力を注いだ人、体育会系の部活に学生時代をささげた人までタイプは十人十色。研修中は、映像事業部に仮配属され、ビジネスマナーなどを実地経験から学んでいった。宣伝室配属になってからは、2年間で12作品を担当。俳優、マネージャー、メディア関係者、現場スタッフなど、数多くの方とかかわりながら仕事を進めていった。

STEP2 入社3年目、演劇部シアタークリエ営業係に異動。産休、育休を取得

劇場運営に携わり、公演を見に来たお客さまと直接コミュニケーションできることが大きなやりがいだった。作品や劇場に対して厳しい意見をもらうこともあるが、終演後に笑顔で劇場を後にするお客さまの姿を見ることがモチベーションにつながっていた。6月に同じ大学で出会った彼と結婚。同年12月から1年間、産休、育休を取得。

STEP3 入社4年目、演劇部シアタークリエ営業係に復職。時短勤務を続けている

17時半に保育園に娘を迎えに行くため、勤務は16時45分まで。限られた時間で仕事を効率的に進めるべく、会社でも家でも少しずつ自分のスタイルを確立している。「同じ舞台は二度とないという演劇の世界で、毎日貴重な瞬間に立ち会えることは大きな喜び。周りに協力してもらいながら、働けていることが幸せです」。

ある一日のスケジュール

6:00 起床。娘と一緒に朝食をとる。洗濯や家の掃除をすませ、天気の良い日は娘と公園に出かける。
8:40 保育園に送り。
9:50 出社。劇場の立ち上げ作業を行い、メールチェック。発売中のチケット販売数や当日券の確認などを行う。
11:00 チラシの在庫数を見て発注したり、出演者からの申し込みチケットの手配を済ませたりと、午前中はデスクワークが中心。
12:00 昼公演開場前のミーティング。お客さまの情報や前日との変更点をアルバイトメンバーとも共有。
12:30 昼公演開場。受付業務を行ったり、場内に入り接客したり。
13:00 昼公演開演後に営業会議。各作品の担当者と現在の状況共有、進捗確認を行う。販促プランを出し合うなど、スケジュールの共有が目的だ。
14:00 昼公演の休憩時間。場内にてお客さまに対応したり、受付で問い合わせを受けることも。
14:30 1時間のランチ休憩。公演中はゆっくりできないことも多いので、自分で作ったお弁当を持参して、劇場事務所の休憩スペースで食べる。
16:00 昼公演が終了。お客さまを最後のひとりまでお見送り。その後、アルバイトメンバーとミーティングを行う。
16:45 退社。
17:30 保育園のお迎え。
18:00 娘の夕食。おなかをすかせてぐずることが多いため、事前に作っておいたものを温めてすぐに夕食が出せるようにしておく。
19:00 娘と一緒に入浴。
20:00 娘を寝かせてから、自分の夕食。
21:00 翌日の夕食の準備や保育園準備。家事も済ませる。
23:00 就寝。映像制作に携わる夫は帰宅が遅くなることが多く、先に眠ってしまうことも多い。

森さんのプライベート

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2011年2月、大学1年生のころからの親友と旅行し、京都・金閣寺の前でぱちり。広島に住んでいる彼女の家に遊びに行くこともあり、1年に一度は会う大切な存在。

 

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会社の先輩と東京で1番高い山、雲取山(くもとりやま)に登ったときの1枚。途中にある山小屋「三条の湯」で1泊し、翌日に頂上へ登った。娘が大きくなったら、一緒に登山したいと思っている。

 

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休日は、やんちゃな1歳6カ月の娘と一緒に都内の公園へ。平日ゆっくり遊べない分、発散するかのごとく遊びまわる。訪れる公園は親が飽きてしまうので、毎回変えている。

 

 

取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子


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