メンバーが力を発揮しやすい環境を整えるのが、プロジェクトマネージャーの役割
国内外のIT企業の最先端の技術や製品をいち早く見つけ出し、長年培ってきたつなぎ組み合わせる力で、顧客にとって最適なシステムを提供する、システムインテグレーター・伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)。280社以上のIT企業とパートナーシップを組み、「マルチベンダー(※1)」「技術力」「サポート体制」の強みを生かしてきた。
顧客に提供できるシステムに幅広い選択肢がある「マルチベンダー」であることは、石坂さんが企業選びをする上でも魅力に感じた部分だったという。ベンダーと呼ばれるパートナーシップを組むIT企業が海外にも多いことから、「海外で活躍できるチャンスがあればいいな」とも考えていた。
「面接担当者が皆とてもフランクで、とにかく話しやすかったです。『学生時代に柔道をやっていた』と言うと『得意技は何?』と詳しく聞かれて盛り上がったこともあり、肩ひじ張らずに素の自分が出せる環境だなと安心したのを覚えています」
(※1)一つの企業だけではなく、複数の企業の製品やサービスを組み合わせてシステムを構築すること。
入社当時、プログラミングは大学の授業で学んだ程度で、職場で必要なITの知識もほとんどなかった。しかし、3カ月間の新人研修と、その後の資格取得に向けた勉強で、エンジニアとしてのベースをしっかり身につけることができたという。
「入社1年目は、同期と研修に参加したり、資格の勉強をしたりと、とても恵まれた環境で技術習得に励むことができました。2年目になると実務が増え、先輩について、OSインストールや、ITシステムの基盤となるサーバーのセットアップなどを経験しました。設計、構築、テストというプロセスの中の、細かな作業ノウハウを一つひとつ覚えていきました」
3年目は、ある大手金融機関のサーバーチームに常駐。システムの設計から導入、その後の保守運用までを、CTCグループで一貫して行った。
「システム構築の上流工程である基本設計からサービス稼働後の運用までを担当し、『この構築作業がなぜ必要なのか』を俯瞰(ふかん)的に捉えられるようになりました。チームで手がけたシステムがリリースされ、組み込まれていくところまでを見届けられるので、お客さまの業務がどう改善されていくのか実感できました。現場で直接、感謝の言葉を頂けたのもうれしかったですね」
さらに、先方企業のロンドン、ニューヨーク拠点へも同様のシステムを導入することとなり、入社時から念願だった海外出張の機会にも恵まれ、1カ月の出張を数回経験した。文化の違いに戸惑いながらも、チームリーダーとして現地の担当者やパートナー企業と折衝し、システム構築を進めていった。
「日本では、3人のサーバーチームに加え、運用チームやプロジェクトマネージャーなど約10人でお客さまを担当していました。しかし出張先でのメンバーは、多い時期で4人。1人で現地に入りシステム構築を進めることもあり、必要な情報を集めて自分で判断する力を鍛えられました。何かトラブルが生じれば、現地のパートナー企業とコミュニケーションを取り、いち早く問題の原因を見つけて対処。インフラ担当としてユーザーテストサポートも行いました。出張先で一番驚いたのは、働き方に対する考えの違いでした。これからプロジェクトが佳境を迎えるという時に、現地の担当者が『明日から2週間、休暇をもらうよ』と言って会社に来なくなってしまったり、業務の進捗具合にかかわらず17時半になるとメンバーがみんな帰宅してしまったり。考え方が違うからこそコミュニケーションを密に取る大切さに気づきましたし、『こんな働き方もあるんだ』と驚きました」
働き方を考えるもう一つの大きなきっかけは、入社9年目の出産だった。11カ月間の産休・育休を経て、出産前と同じ金融システム技術開発部に短時間勤務で復帰。最初の3カ月は、仕事のやり方をどう変えていくべきか、毎日が葛藤の連続だったという。
「出産前も長時間働いていたわけではありませんでしたが、時間がかかっても仕事をきちんと進められていればいいと思っている自分がいました。子どもが生まれてからは、育児のために勤務時間を短くしたので、『もっと時間があればできるのに』というもどかしさや、『ほかの人はこんなに頑張っているのに』という申し訳なさを勝手に感じていました。『考えていてもできないものはできない』と吹っ切れたのは、復帰3カ月後くらいから。自分が必要とされるためにはどう仕事を進めるべきかを考えよう。そう前向きに思えてからは、心苦しさもすっと消えていきました」
現在は、プロジェクトマネージャーとして金融機関の顧客先に常駐しながら、マネジメント業務を主に担当している石坂さん。「メンバーの能力が最大限に発揮できる環境を用意すること」に、力を注いでいる。
「金融システム技術開発部のメンバーは皆技術レベルが高く、技術的に言うことはないので、私はメンバー一人ひとりの性格や強み・弱みを見て、誰に何を任せたらチーム力が上がるかを考えています。お客さまの前に立って話すことが得意なら積極的にその役割を担当してもらいますし、自分からコミュニケーションを取るのが苦手なメンバーにはこちらからこまめに話しかけます。息子が熱を出したりしたら、仕事を休まなければいけないこともあり、情報共有は欠かせません。『明日も通常通り勤務できるとは限らない』と自身に言い聞かせています。突然の看病による休暇についてもメンバーが理解してくれていて、余裕を持ったスケジュールで仕事を進める、先延ばしにしないなど心がけてくれており、本当にありがたいなと思っています」
今後、いつかはプロジェクトマネージャーというポジションで再び海外案件に携わりたいと話す石坂さん。顧客先への常駐やこれまでのPM経験を生かし、海外で、文化や価値観の異なるメンバーと案件を推進していく挑戦にわくわくするという。
「それぞれの“考え”を聞き、高いパフォーマンスを発揮してもらえるように働きかけた結果、プロジェクトが予定通り進むと達成感があります。海外ではさらに予測のできないマネジメントの難しさがありそうで、人間としてますます成長できるんじゃないかと期待しています」
案件の進捗を確認した上で、システム導入までの進行スケジュールに無理がないかを再考する。
顧客先でプロジェクトメンバーと案件の進捗を共有する。
石坂さんのキャリアステップ
STEP1 入社1年目の研修期間を経て、2年目に金融システム技術開発部に配属
1年目は技術習得のため、さまざまな研修に参加し、資格試験の勉強をするなど、学習に充てる時間が多かった。2年目から、金融システム技術開発部で、先輩社員に教わりながら、案件のシステム構築に携わる。研修で身につけた技術を実務に生かせる面白さがあった一方、システムトラブルにより顧客からお叱りを受けて対応にあたるなど、システムエンジニアとしての責任の重さも実感した。
STEP2 入社3年目、顧客先である金融機関に常駐し、サーバチームに所属
それまではプロジェクトの中の一部分だけを担当してきたが、初めて設計から運用まで携わることになった。顧客先に導入する製品が、1年目の研修で重点的に学んだもので構成されており、学んできたことが生かせるやりがいも大きかった。「せっかく常駐しているのだからと、お客さまとは密にコミュニケーションを取り、とてもかわいがっていただきました。どのタイミングでどんなふうに話しかけると必要な情報を得られるのか、相手をよく見て動く力はこの時に身についたと思います」。入社4年目にはチームリーダーとしてシステム構築をはじめ、メンバーの仕事の進捗状況のチェックや、PMとの情報連携にも従事。顧客の海外拠点であるロンドン、ニューヨーク出張を経験し、エンジニアスキル、リーダーシップ、顧客コミュニケーション力を磨いていった。
STEP3 入社6年目、プロジェクトマネージャーとしてプライベートクラウドの構築案件を担当
別の金融機関の顧客先向けにプロジェクトリーダーとして常駐し、3人のチームでクラウド環境の構築を担当した。「管理業務をする前は、システム構築の技術的な点にのみ注力していましたが、マネージメントをする立場になってからはメンバーのタイプを見極めて役割を与える“人間考察力”が必要になりました。案件の進行とともに、メンバーが着実に成長していくのを目の当たりにして、それが新たなやりがいになっていきました」。入社9年目には息子を出産。11カ月の産休・育休ののち、9:00~16:00の短時間勤務で復帰。復帰直後は、常駐先に戻らず、自社オフィスでプロジェクトの進捗管理などを担当した。
STEP4 入社11年目、プロジェクトマネージャーとして金融機関の顧客先に常駐
育休後3カ月の自社オフィス勤務を経て、顧客先の常駐案件に携わる。プロジェクトマネージャーとしてマネジメントを担当し、実作業は技術レベルの高いメンバーに任せている。「仕事の効率を高めるため、毎日出社したら1日でやるべきことを、優先順位をつけてリストアップ。次に何をするべきか、ぼんやり考える時間がなくなり、業務のスピードが上がりました。常駐先とはいえ、CTCのプロジェクトメンバーが集まったフロアにいるため、16時退社もしやすく、時間になると『帰らなくて大丈夫ですか』と声をかけてくれるメンバーがいる。理解ある環境にとても感謝しています」。
ある一日のスケジュール
石坂さんのプライベート
2016年4月、千葉県・房総半島へ家族旅行。好き嫌いもなく、食欲旺盛で何より!
2016年4月、息子と近所の公園へ。まだ一人でブランコに乗れないので一緒に遊ぶ。
2016年6月、水族館へ初めて連れて行ったところ、ペンギンに夢中に。「かわいいね~」と息子のペースで館内を回った。
取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子