充実した社内制度を使いながら、自分なりの“仕事と育児の両立”をかなえる
ベンチャー企業のパイオニア、シリコンバレー発祥の企業とされるヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)。スタンフォード大学の学生2人が、カリフォルニア州の小さなガレージで始めた会社は、現在、サーバー機器、ストレージ・ネットワーク機器(※1)、ビッグデータ関連分野など多方面で世界トップレベルのマーケットシェアを誇る、大手ITテクノロジーカンパニーだ。
(※1)デジタル情報を保存するハードディスクなどの記憶装置のこと
「海外とつながりのある会社で働きたい」と考えていた川向里紗さんにとって、当時世界170カ国以上に拠点を持つHPEは理想の職場だった。“IT”に苦手意識が強かったが、あえて挑戦しようと考えたのは、川向さんなりのキャリアプランがあったからだ。
「大学卒業後、若いうちに海外で働く経験を積みたいと、単身でオーストラリアに行ったんです。履歴書を片手に『インターン生として働かせてください』と飛び込み直談判の末、人材派遣業の営業として雇ってもらえることに。そこで、語学や文化の壁がある中、“人にモノを売る”難しさを痛感しました。海外で働くより、日本に拠点を持つグローバル企業で働く方が自分には合っていると考え、日本に帰国。就職活動中に日本ヒューレット・パッカードに出合いました。ITの知識は皆無でしたが、語学力に加えITに強くなれば、将来何かあっても一人で生きていけるはず。『経済的に自立できるスキルを身につけるには』、と逆算したとき、日本ヒューレット・パッカードが最適だと思いました」
行動力と人生設計力の高さに驚くが、「若さと勢いで動く一方、実は心配性な性格でもあるんです」と本人は笑う。
入社すると、半年間のエンジニア研修を経て、現部署でもあるソリューション・パートナービジネス本部パートナービジネス開発部に配属となった。「研修では、プログラミング試験に合格するのに必死。配属後はわからないことの多さに頭がパンクしそうだった」と当時の大変さを振り返る。
「ソリューション・パートナービジネス本部パートナービジネス開発部のお客さまは、日系大手メーカーの保守サポート主管部です。パートナー契約を組み、HPEのハードウェア機器納入後のメンテナンス(保守運用)のプログラム開発推進を行うのが、私たちの仕事。パートナー企業(保守サポート主管部)は、金融会社や航空会社など、システム運用が必要なあらゆる企業の保守業務を請け負っていますが、何かトラブルが生じた際、システム開発元であるHPEが対応する必要があります。その対応内容について、どういった条件の保守運用プログラムが適切であるかを決めていくのです」
例えば、システムトラブルが業務運営に致命的な影響を与える場合には、「365日24時間、保守員を待機させ原因究明の支援をする」といった最高レベルのサポートプログラムを提案するが、「使用用途や、予算の都合上、営業日のみ9時から17時までの対応でいい」といった案件もあり、あらゆるケースに対応する必要がある。
「新人時代に苦労したのは、社内だけでも関係者が非常に多いこと。社内の大手メーカー営業担当にお客さまのニーズを聞き、求めるサービスレベルをエンジニア部門が対応可能かを確認し、法務部に契約書内容に不備がないかをチェックしてもらい、実際にお金が動く際は経理部門への連絡も必要になります。1年目は、お客さまに何か聞かれるたびに『すぐに確認します』と返答しては、社内でわかる部門の人を探すことの繰り返し。米国本社と、契約が本当に履行できるか調整する必要もあり、業務の流れを覚えるのに時間がかかりました」
ITへの苦手意識がなかなか抜けなかった川向さんだが、2年目には、真摯な対応からお客さまと深い信頼関係を築き、大型受注案件をもたらした。
「あるシステムインテグレーター企業(※2)を担当し、数億円規模の保守プログラムを導入いただき、今も順調に継続いただいています。社内表彰もされた案件でしたが、むしろ私の方が、お客さまからの叱咤(しった)激励で成長させてもらいました。契約書を読みこなせていない状態で、お客さまからの質問や相談に即答できない私に『すぐに答えられるようにしておかなくちゃダメだよ』と厳しくも優しく諭してくれました。期待に応えたいという一心で勉強したから、今があると思っています」
(※2)システムの企画立案、プログラム開発、完成したシステムの保守運用を一括して行う企業
現在は、2年間の産休・育休を経て、2016年3月から同部署に時短勤務中の川向さん。フレックスタイム制度(11時~14時のコアタイム以外は、勤務時間を前後に調整できる制度)や、フレックスワークプレイス制度(最大週2日まで、自宅など社外で仕事ができる制度)などが社内に浸透し、年齢や性別に関係なく、多くの社員が活用している日本ヒューレット・パッカード。働きやすさは、ワーキングマザーになっても、変わらないと話す。
「自分のライフスタイルに合わせられるフレックスタイム制度は、周囲も率先して活用していますし、求められるアウトプットを出している以上は個人の裁量に任せられています。社内コミュニケーションはチャットやテレビ電話を使い時間をフル活用し、また月に1回の上司との面談、半年に1回の人事評価ミーティングで、働き方やキャリアについて相談できる場があるのも安心です」
復帰直後は、仕事も子育ても100パーセント力を注ぎたいという葛藤(かっとう)で苦しい時期もあったという。しかし、どういうキャリアを描きたいのか、自分が決めさえすれば、それをサポートする制度があり、周りの理解も深い。今は、「家族が最優先」というスタンスが揺らぐことはなくなったそうだ。
「子どもの急な体調不良にも『残りの仕事やっておこうか』と言ってくれるメンバーが周りにはたくさんいます。今の私にとって、家族が一番で仕事は二番。そんなスタンスでも、私を必要としてくれて、活躍できるのは、日本ヒューレット・パッカードだからと思っています。人それぞれの価値観に合わせて、制度を活用できる環境に感謝しつつ、私なりの両立を実現していこうと思っています」
日本で進行中のプロジェクト内容について、社内共有資料を作成。米国本社向けの資料はすべて英語なので、語学力のブラッシュアップも常に求められている。
パートナー企業の保守サービス主管部担当と、新規保守サービスについて打ち合わせ。保守サービスの内容と契約書の文言について協議する。
川向さんのキャリアステップ
STEP1 大学卒業後、1年半、オーストラリア・シドニーで職業インターンシップに参加
大学3年時に就職活動をするも、「海外で働く経験を積みたい」という思いが強く、卒業後に渡豪。人材派遣業でのインターンシップ経験を経て、日本に帰国し、グローバル企業を中心に就職活動を行った。「中途採用(既卒扱い)での入社という道もありましたが、IT知識があまりにないので、しっかり研修を受けさせてほしいと新卒枠での入社を切望。日本ヒューレット・パッカードに入れてもらいました」。
STEP2 入社1年目、半年間の研修を経て、ソリューション・パートナービジネス本部パートナービジネス開発部に配属される
入社後は、座学を中心とした研修期間が半年あり、基礎知識をしっかり身につけることができた。配属されたパートナービジネス開発部の仕事は、顧客先であるパートナー企業と保守運用プログラム内容を取り決めるまでに、2~3年かかる場合もある。担当営業が2~3年後に導入する新しいシステムを提案するところから始まる、長期プロジェクトゆえ、契約が成立した際の安堵(あんど)感も大きいという。「十数社のパートナー企業を持ち、うち3つから4つのプログラム提案が常時動いています。契約書が英語のものもあるのですが、そこにサインを頂いた時が、すべてを滞りなく推進できたと心底ほっとする瞬間です」。
STEP3 入社7年目、長男出産のため、2年間の産休・育休を取得
結婚や出産というライフステージの変化にも左右されない働きやすさを入社以来ずっと感じていたため、復帰に不安はなかった。「地元・鹿児島での里帰り出産を選んだのですが、日本ヒューレット・パッカードのエンジニアである夫も2週間の育児休暇を取得しました。急な業務があれば、リモート作業もしていたようで、いつでもどこでも仕事ができるという環境をありがたく感じましたね。育休が2年間になったのは、保育園がなかなか決まらず、20もの園を受けて、18個目の申請でようやく入れたから。待機児童問題の深刻さを切実に感じた日々でもありました」。
STEP4 入社9年目、現部署に時短勤務で復帰
育休明け後も、入社以来同じソリューション・パートナービジネス本部パートナービジネス開発部に復帰。時短勤務を続けている。「パートナー企業とのやりとりは電話会議で行うなど、仕事の進め方を工夫しています。16時までの勤務と周りも理解してくれているので、社内会議も必ず業務時間内に設定してもらい、子どものことで緊急事態があれば、すぐにサポートしてくれる環境がある。恵まれていますね」。
ある一日のスケジュール
川向さんのプライベート
2015年12月に、新宿御苑へ。週末は、散歩好きな息子と都内の公園巡りを楽しんでいる。
2016年7月に、家族で遊園地へ。プールで遊んだ帰りに観覧車を楽しむ。
2016年8月に、出かけた先の公園で。息子の興味に合わせて、寄り道もたくさん。
取材・文/田中瑠子 撮影/鈴木慶子